現場発、未来志向の建設業へ――「重機でGo」発案者の寿建設株式会社 森崎英五朗社長インタビュー

公開日:2025/05/13 最終更新日:2025/05/13

現場発、未来志向の建設業へ――「重機でGo」発案者の寿建設株式会社 森崎英五朗社長インタビュー
トライアローが開発した重機シミュレーターアプリ「重機でGo」は、福島県を拠点にトンネル工事やそのメンテナンスを手がける寿建設株式会社の森崎英五朗社長のアイデアに着想を得たものでした。

寿建設の創業はなんと大正時代、大分県出身の森崎社長の曽祖父がトンネル工事に携わるようになったことがルーツだそうです。今回は「重機でGo」50万ダウンロードを記念し、森崎さんへ建設業のリアルと未来、「重機でGo」を発案したきっかけなどについてお話を伺いました。

「地域に根ざす建設会社」としての覚悟


建設会社と聞くと古くから地域に根ざした企業が多いイメージですが、寿建設の創業の地は福島県や東北地方ではなかったそうです。

森崎社長(以下、敬称略):うちは元々、大分県でトンネル工事を専門にやっていた、「豊後土工(ぶんごどっこ)」と呼ばれる家系なんです。大分県は山が多いこともあってトンネルも多い地域で、当時から全国にトンネル技術者を送り出していた土地柄でした。日本の地形的にもトンネルのニーズは全国各地にあったため、工事ごとに家族で宿舎に住み込んで仕事をしていた、いわば「定住しない働き方」が普通だったんですね。

そんななかで、父が「ちゃんと地域に根ざした会社にしたい」と福島を拠点にすることを決めました。私はというと、もともと建設業とはあまり関係のない仕事をしていて、岡山で暮らしていたんです。でも、1995年に父に呼ばれて寿建設に入社しまして、営業などの現場を経験した後、2006年に社長に就任しました。

寿建設は、元請けも下請けもやる少し珍しい会社

現在の寿建設はどういった特徴の会社なのでしょうか。

森崎:
寿建設には、現在「3本の柱」があります。1つ目は専門工事会社として主に下請として新しいトンネルを建設する工事。2つ目は福島県福島市という地元での土木工事全般、こちらは災害対応なども含みます。そして3つ目が今後重要になってくるトンネルなどの保守・メンテナンス専門工事です。

この“専門工事業でありながら地場ゼネコンでもある”という建設会社はあまりないと思います。大手さんと一緒にやる現場もあれば、地域密着で自分たちが主導する現場もある。それぞれに違った面白さや学びがあって、それが当社の強みになっていると感じます。

「重機でGo」は、現場の若手の声から着想を得た

2019年に完成した重機でGoも、2025年4月に50万ダウンロードを達成しました
2019年に完成した重機でGoも、2025年4月に50万ダウンロードを達成しました


最初に「重機でGo」のようなアプリが必要だと思ったきっかけはどのようなものだったのでしょうか。

森崎:現場で若手からよく聞いていた声がヒントになりました。「実機に触れる機会が少なくて、練習したくてもできない」と。確かに、現場に重機はあっても常に稼働しているから、練習に使える時間ってあまりないんですよね。
ちょうどその頃、世の中では「ポケモンGO」が流行っていました。スマホを持って歩き回るっていう文化が広がっていたので、「スマホを使って、何か業界の役に立つものが作れないかな」と考えるようになりました。


確かに、重機操縦は「見て覚える」と言っても限界があります。そこにゲーム的な要素があるアプリケーションを導入するのは効果的ですね。ちなみに「重機でGo」という名前の名付け親も森崎さんだったと聞きますが。

森崎:以前からネーミングの際には、それが何なのかすぐにイメージ出来ることにこだわっていました。
建設業界って、工法や製品のネーミングがどういうものか分かりにくいことが多いんですよ。シンプルで、誰でもすっと受け入れられるものがいいと思ったんです。

それからしばらくして、トライアローさんが本当に形にしてしまった(笑)

防災、教育、PR…アプリが生んだ広がり

「重機でGo」が完成後、当初はシミュレーターアプリだと考えていましたが想定とは違ったシーンでも役に立っていると言います。

森崎:「重機でGo」が世に出てから、「こんなところで役に立ってるんだ!」と驚かされたことがいくつもありました。とくに印象に残っているのは、災害ボランティアでの活用です。
ボランティア活動のために重機の免許を取った人は、普段は別の仕事をしている方も多くて、いわゆる“ペーパードライバー”状態の方が多いそうなんです。でも、このアプリは実際の重機と同じレバー配置で操作できるし、VR版では本物さながらの体験ができます。災害時にすぐに使えるようになる、という点で非常に役立っていると聞きました。

また、キッザニアの出張版である「Out of KidZania」が福島に来た際には、建設業の体験コンテンツとしても「重機でGo」が採用されていました。子どもたちが遊びながら業界に触れる機会を持てるというのは、業界そのもののPRという点でも大きな意味があったと思っています。


Out of KidZania in ふくしま相双の様子 重機でGoをご活用いただきました
Out of KidZania in ふくしま相双の様子 重機でGoをご活用いただきました

重機好きの子どもたちに、「次の一歩」をつなげたい

「重機でGo」のようなアプリは、今後の若い人材が建設業界に興味を持つきっかけとなる可能性も秘めていると森崎さんは考えているそうです。

森崎:重機って、小さい子はすごく好きなんですよね。おもちゃや図鑑を集めてる子も多い。ただ、中高生になるにつれて自然と興味が薄れていって、進路を考える頃には建設業界との接点がすっかりなくなってしまっている。

でも「重機でGo」みたいに、遊びながらリアルな操作を体験できるアプリがあれば、そこに“もう一歩”の接点をつくれるんじゃないかと。そして、その中の何人かでも「この業界、面白そうだな」と思って入ってきてくれたら嬉しいですよね。

将来的にはeSportsとの連携なんかも視野に入れて、もっと可能性を広げていけたら良いのでは、と思っています。

2024年問題はDX化の大きな推進力となった

深刻な人手不足が続く中でありながら、いわゆる2024年問題と呼ばれた残業規制にも対応しなくてはならず、寿建設もここ数年は業務の改善と効率化に腐心したと言います。

森崎:特にここ数年で大きかったのは、いわゆる「2024年問題」と呼ばれていた残業規制。人手が足りない中での規制だったので、効率化は避けて通れませんでした。当社では5年ほどかけてデジタル化を進めてきました。
たとえば、大量の書類はすべてPDF化してクラウドで管理、OCR化もして検索性を上げました。

他にも、「Scanat」というアプリとの出会いも大きかった。 
「Scanat」はもともとスマホやタブレットでマンションや家の中を撮影し、それを正しい縮尺の3Dデータに落とし込んでリフォーム時に活用するアプリでした。これをトンネルのメンテナンス工事にも応用できるのでは?と思い、早速「Scanat」の開発会社と連携を始めました。
結果的に、既存の「Scanat」の技術を応用することで、動画を撮影する要領でタブレットを持って進むだけで、トンネル内の正しい縮尺を再現した3Dデータを簡単に作れるようになりました。


現場でScanatを利用している様子(寿建設公式noteより)
現場でScanatを利用している様子(寿建設公式noteより)

業界の魅力を伝えるには「業界外の視点」こそ必要

DX化の推進はもちろんのこと、森崎さんは業界自体の魅力もPRし、この業界で働いてみたいと思う人も増やしていく必要があると考えているそうです。

森崎:業界のPRをやろうにも、最初に自覚したのは「インフラのメンテナンスに憧れる人はいない」ってことでした(笑)。
だったらまずは、どんな仕事なのか知ってもらうことが先だと考え、縁あって知り合った国際的に活躍する写真家の山崎エリナさんにお声がけしたんです。

現場の技術者や巨大な重機たち、私たちには見慣れた光景でも、外の人にとっては新鮮なものばかり。あえて細かい指示は出さず、山崎さんに自由に撮ってもらった写真は、後に福島市で開催された「インフラメンテナンス展」や、写真集『インフラメンテナンス』として世に出ました。

こういうコラボも、業界の外の人の力を借りて初めてできたことなんです。

山崎エリナさんによる写真集「インフラメンテナンス」
山崎エリナさんによる写真集「インフラメンテナンス」

現場の知恵とITの力、その組み合わせで可能性は広がる

業務の効率化のために積極的にIT技術を採用してきた森崎さんですが、それと同じくらい、現場の創意工夫も大切だと言います。

森崎:IT業界では日々新たな技術が登場して、そういった技術が私どもの業界でどのように役立てることができるかを考え続けるのはとても重要なことです。一方、現場で働く人間にしかでき得ない発想やアイデアもたくさんあり、IT技術と現場の創意工夫の両輪が組み合わさることで、建設業界の可能性は広がっていくと思います。


実際に寿建設の中でも、現場の皆さんのアイデアで生産性が劇的に上がった例が最近もあったそうです。

森崎:全長3,000m以上ある長いトンネル工事で坑内全線に敷いたレール(線路)には、工事の経過の中で土などがビッシリとこびりついてしまうのです。

工事の最後に3,000m分のレールを一気に撤去しないとならないのですが、工具を使って人力で行うそのこびりつきの除去、清掃に大変な手間がかかることが見込まれました。


土がこびりついた線路 寿建設 公式noteより
土がこびりついた線路 寿建設 公式noteより

 

現場の人間が“レールを器具で挟んで重機で引っ張ったら一気に土を剥がせるのでは”というアイデアを思いつき、実際にレールを挟む金属製の器具を作ってみたんです。そうすると狙い通り一瞬で土を落とすことができるようになり、一気に作業が効率化されたんです。作業量にして数十分の1くらいになりました。


 

線路の大きさに合わせたボックス状の器具を自作したそう(寿建設 公式noteより)
線路の大きさに合わせたボックス状の器具を自作したそう(寿建設 公式noteより)



実際に土を重機で削ぎ落としている映像


こうした発想って、現場で毎日働く人にしか出てこないものだと思うんです。でも、そういう知恵を世の中に広げていくのはITの得意分野。実際にうちでもYouTubeやnoteでこうした情報の発信をしています。今後も、デジタルとアナログの“得意分野”をうまく使い分けてより良い環境を作って行き、建設業界の魅力を発信して行きたいですね。


次世代に向けた人材育成や、業界の魅力発信、そして働きやすい環境づくり。森崎さんの言葉には、現場で生きるからこそのリアルと、未来への前向きな視点が詰まっていました。寿建設、そして建設業界がどんなふうに進化していくのか、今後の展開がとても楽しみです。


【お話を伺った人】 森崎 英五朗(もりさき えいごろう)さん
寿建設株式会社 代表取締役社長

1968年生まれ。岩手県盛岡市で出生の後、福島県福島市で育つ。趣味は読書で、時間さえあればずっと本を読んでいられるほどの読書家。自社だけでなく建設業界全体の魅力の発信にも積極的で、複数の省庁が合同で開催した第3回インフラメンテナンス大賞ではその功績が認められメンテナンスを支える活動部門にて優秀賞を受賞。

寿建設株式会社ホームページ
寿建設建設公式note「寿goodob」

重機でGoについて

今回インタビューをさせていただいた森崎英五朗社長のアイデアから開発した「重機でGo」は、VR技術を利用することで没入感と立体感を実現し、建設現場で使われる重機の操縦感をよりリアルに体験できる本格的な重機シミュレーターです。
新人オペレーター育成のための操作訓練をはじめ、学校の授業や学生向けの職業体験イベント、建設系イベントでのプロモーションツールとしてもご利用いただいています。