「トンネル工事に女性が入れない法律があった」―建設業界の女性のWLB事情1

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2015年08月19日

転職を考える皆さんにお届けしているトライアローラボですが、今回は番外編とし「女性エンジニアの働き方研究室」より情報をお送りします。

結婚や子育てといったライフステージの節目でも、女性エンジニアの皆さんが継続して働き続けられる方法は何かを考える当研究室。女性エンジニアの転職・再就職事情を知るべく、今回は建設業界にスポットを当ててみます。

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「土木技術者女性の会」という団体を皆さんはご存知でしょうか。土木業界で働く女性のために30年以上も前に発足された会です。
会誌「輪」の編集長である箱田裕子さんと、箱田さんが勤務されている大成建設の取り組みや業界のワークライフバランス事情等を、大成建設広報室課長の下(しも)明彦さんにお伺いすることができました。



――まず「土木技術者女性の会」について教えてください。

箱田さん:
発足は1983年になります。この年代は女性技術者の第一世代。どの会社にどんな人がどのように働いているのかわからない状態で孤軍奮闘してきて、仕事をこの先も続けるためにはどうしたらいいのかという不安を抱いていても相談できる相手がいない。最初は同じ境遇の方々との励まし合いを目的としてできた会です。32年間継続的に活動をし、2014年には一般社団法人となりました。発足当時から所属して今年定年を迎える女性もいます。また、独立されている方や、部長や建設現場での所長等、管理職を努める女性もいます。さまざまな働き方を見て、前を向くことができる会です。

ところで、トンネル工事には法的に女性が入れなかったことを知っていますか?



――そんな法律があったんですか?

箱田さん:
坑内労働は女性には適切ではないという考えから労働基準法(64条の2)より原則として禁止され、女性はトンネル工事現場等には入れませんでした。しかしそれでは調査業務さえできません。特別に許可をもらい入ったとしても「あの人、入っているよ」と後ろ指さされたり、作業員さんたちとの摩擦が生まれたり。それらを解消するため当会では法改正を働きかけ、結果、女性でもトンネルや地下鉄工事に従事することができるようになりました。



――現在の会員数は?

箱田さん:
全国各地に約200名、年齢は20代から60代まで。どの年齢層も比較的バランスの取れた人数で構成されています。



――会員の方々が勤務されている企業は、ゼネコンだけですか?

箱田さん:
会員の中には学生もいますし、勤務先は官庁やコンサルタント、学校もあります。企業規模の大小も関係なく所属していますね。社内でロールモデルが存在せず、1人で頑張っている方も多数います。会では女性技術者の社会的評価の向上やロールモデルの構築、土木技術者を目指す女性学生へ情報提供といったサポートも行っています。



――他にはどんな活動を?

箱田さん:
会は4支部に分かれていて、年数回各支部で見学会や勉強会を行っています。また、年に一度、全国の皆が集まり総会・見学会を開催しています。今年は北海道支部にて開催し、新千歳空港や国道453号線、定山渓ダムを見学しました。昨年当会は内閣府「平成26年度女性のチャレンジ賞」を受賞しましたので、その祝賀会も行いました。



――学生へのサポートも、ということですが、最近では土木業界に就業したいという女子学生も多いのでしょうか。

箱田さん:
イメージしているよりも多いと思いますよ。

下さん:私は入社から20年経ちましたが、その頃の時代から比較するともう圧倒的に増えた印象ですね。私たちの時代、理系のクラスは全員で50人いたら女子は5人いるかいないか…というのが当たり前でした。でも今はもうそんなレベルでなく、比率は50人中20~30人が女性というぐらい。採用となると女性の数は少し減りますが、就職活動で来る学生の男女比率も6:4ぐらいまで近づいているように思えます。

箱田さん:弊社でも2003年あたりから土木技術系の女性を積極的に採用しています。他の企業もそうですが、その時期に入社した人たちが出産の時期にさしかかっていると思われます。2015年の3月に会誌「輪」で出産特集を組んだ際、働くことを継続しながら出産を迎えることが当たり前のようになっているな、と感じました。



――ちゃんと定着したというか、普通になったっていうことですかね。

箱田さん:
定着していると思いますね。子育てと両立させながら仕事をやっているっていう方もだんだん増え、レアケースではなくなってきたと思います。



――会社側が変わってきた?それとも、女性の意識が変わってきた?

下さん:
会社が変わったんだと思います。当社の場合、2003年に技術系の総合職で初めて女性の新卒者を採用しました。2006年から女性活躍推進が本格化し、2007年には専用の推進組織として「女性活躍推進室」が誕生しました(現:「いきいき推進室」)。当社では多くの女性が出産後も仕事で活躍していますが、会社はもちろんのこと、周りの男性含め、他の社員の方々も認識が変わってきていると思いますよ。



――現場の技術者として就業したが「子育てと両立しづらい」「ロールモデルもいない」ということで、ほかの職種にシフトをしている人が結構いるのではないかなと思ったのですが。

下さん:
出産を迎えている期間は現場でなく積算や設計、工事計画の部門に配属にしてもらい子育てが落ち着いた段階で現場に戻りたいという人もいますし、ずっと現場がいいという社員ももちろんいます。当社では年3回の面談で将来的なキャリアプランを聞き、フレキシブルに対応しています。ジョブリターンといって出産や配属者の転勤で退職する社員が復職できる登録制度もあり、実際にそうやって戻ってきた人が何人もいます。



――制度が整っていますね。他の企業はどうなのでしょうか。大企業の制度が中小企業まで浸透しているのでしょうか?

下さん:し
ていると思います。技術者を希望して入社してくる女性が増えてきましたからね。例えばもともと男性10人しかいない会社に女性が1人来て普通に働いているうちはいいけれど、その方が結婚・出産をして子どもを保育園に預けることにならなくなったら就業時間の課題が出てくる。予め会社が制度を用意するというよりは、状況に合わせて変えていっていると思います。やはり人材に辞められると会社としては大きな損失となってしまいますから。



――同じ技術者でもITの世界ですと、育休や退職でブランクが空いてしまうと身に付けていた技術が古くなってしまって、エンジニアとして復職や再就職しづらいという声も聞かれるのですが、土木業界はどうでしょうか?

箱田さん:
土木にも技術の進歩ももちろんありますけれども、土木の業界は完成までの工程のスパンが長い。また、「経験工学」という言葉のとおり、今までの実績がものを言う分野です。復職するにも戻りやすい業界だと思いますね。

下さん:土木・建築のプロジェクトで考えると通常のビルならば1年、大型の空港なら2~3年、大きなビルでもだいたい完成まで5年ぐらいですから。

箱田さん:出産を理由にご退職され、この業界で再就職をされた方のケースも、過去「輪」で取り上げたことがあります。再就職という観点で見ても、ITといった技術の進化が目覚ましい業界よりも戻りやすいのかもしれませんね。

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土木業界のことを知らない人でも、「ドボジョ」という言葉を一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか?土木の仕事に携わっている女性のことを表しますが、2014年には建設業界においての女性技術者・技能者の愛称「けんせつ小町」が誕生しました。



――「けんせつ小町」という名称で、女性も入れる業界というイメージがつきやすくなった気がします。

箱田さん:
そうですね、女性専用トイレや更衣室を設置したり、弊社においても作業服を女性の体型に合わせて作ったり、ウエストサイズが調整できるようSサイズに汎用性を持たせたりしています。



――男性だとそういう概念がないかもしれないですね。

箱田さん:
機能面やデザイン面等について、作業服のメーカーに「こうなっているといい」という意見を出していますね。安全靴ひとつとっても、大きいサイズの靴に物を詰めて履いたりすると転倒の危険もありますので。



――そのうち女性だけが作った建物ができるかもしれないですね。

下さん:
「なでしこ工事チーム」というものもあるんですよ。現場の女性チームのことで、ゼネコンを中心とした建設会社だけではなく職人も含めて構成されています。日本建設業連合会(建設業の発展に向けた活動を行う法人団体)が推し進めている施策のひとつで、女性が活躍しやすい業界を目指してこういったチームを設けることの他、「技術系の女性社員や女性管理職を5年で2倍にする」といった指針が出されています。



――その取り組みの1つがトイレや作業服だったり?

下さん:
そういうことですね。「職場に女性トイレを、更衣室を」と言うのは当たり前と皆さん思うかもしれませんが、実際そういった感覚がなかった業界。そういう部分から意識を変えて行こうと国や日本建設業連合会も声をあげて取り組んでいます。これからは定量的に女性を採用していきますから、女性が普通に働ける職場を目指さなければいけないなと思いますね。でも現場に出たら、女性監督も職人さんにバンバン指示を出していますよ。



――そういうことは男性の監督より女性の方がうまく回して、女性ならではのメリットもあったり?(笑)

下さん:
それはあると聞いたことがあります。男性が頼んでも「ふざけんなよ」と言われるところを、女性がお願いすると「しょうがねえな」と(笑)。



建設業界で働く女性を「けんせつ小町」、よりポピュラーな表現では「ドボジョ」という言葉で呼ぶようになった昨今。とはいえ、女性がいる職種は事務や設計等のオフィスワーク系では?と思っていましたが、私たちが思っている以上に現場にも女性の進出が進んでいるようです。業界内でも再就職のケースもあるとの話も聞け、明るい気持ちになりました。

次回も引き続きお話しをお伺いしていきます。

後編はこちら
「男性の働き方ももう1度見直す時期に来ている」―建設業界の女性のWLB事情2


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